◆春が来れば デラックス・コレクターズ・エディション
チェ・ミンシク!
この作品を制作中期間、恐らくチェ・ミンシク主演のボクシング映画
「クライング・フィスト」と重複していたと想像するが。。。
つまり「クライング・フィスト」では当然ながら壮絶なファイト・シーンが、殆ど
ノー・スタントで演じられていたはずで、顔面は勿論、全身に相当のダメージが
残っていた、と想像するが、少なくともこの映画のどのシーンにもそのダメージを
影響させるシーンはひとつも、無い。
これだけでもチェ氏をリスペクトできる、数少ない役者であることは間違いない。
またこの作品の制作中、チェ氏は一旦撮影を中断して「オールド・ボーイ」
カンヌ上映の為に式典に、出席していた。帰国後の記者会見では「オールド・ボーイ」の
事ではなく、早くこの映画の為に現場へ戻り少年達に会いたい、というコメントを
残していた。
こんな役者、少なくとも現役の日本の役者世界を見渡しても存在しない。
本編は、淡々とタイミング悪く、要領悪い、普通のうらぶれた中年男性が
ドロップ・アウトして炭鉱のある、これまたうらぶれたトゲにたどりつき、
中学の音楽教師になっていくところから物語は始まる。
田舎の少年たちや田舎の人々とのふれあいから、段々と再生していく
過程を、本当に何も起こらずに淡々と描いていて、ある意味では
退屈な物語。
ところが、チェ氏の演技は勿論、素朴な少年達、薬局の美しく清純な薬剤師、
かつての恋人(名前は失念したが、チェ氏に劣らず素晴らしい演技)などの
素朴でありながら実直で、ちょっと不器用な当たり前の普通の人たち、という
キャラクター設定が優しく描かれていて徐々に画面に吸い込まれていく。
一つのクライマックスである炭鉱での、雨の中での演奏シーン、少年の父親の
あの表情の演技で、涙腺が思わず緩む。
曲が「威風堂々」だというのも、なんというか。。。ズルイ。
チェ氏のお母さん役の女性の優しい演技も素晴らしい。
大きくなった息子と一緒に眠るシーンのあの会話!
演奏会でこっそり、少年達ではなく息子の写真を撮るシーンのあの表情!
どんなに大きくなっても、母親には子供でしかない、という
ステレオタイプのイメージをあれだけ嫌味なく描けるというのは感服。
2度ほど出てくる韓国ラーメンなのか不明だが具が全くない、スープのみの
ラーメンを食するシーンのなんとうまそうな演技も秀逸。
あんなにラーメンがうまそうに見える映像、日本のCMにすら、ない。
全てのキャラクター設定に味わいがあって、誰も置いていかれないので
本当に素直に映画を楽しめる。この物語の後にもきっと、という風に
想像できるところがいい。
そう、きっと誰にも春がくる。そして春がくればきっといい事がある。
そう思いたい、少し疲れた大人への優しいプレゼント。
エキセントリックなイメージは、一切ないが、素晴らしい作品に出会えた幸運に
感謝する。
繰り返すが、あの元恋人、全然派手な顔立ちもしていなくて地味な
イメージなのに、アラフォーくらいの年齢だろうに、なんてチャーミングなのだろうか。
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